虎の門そとから電車に

 虎の門そとから電車に乗ったのだが、半ば無意識的に浅草公園へ来た。
 池のほとりをぶらついて、十二階を見ると、吉弥すなわち菊子の家が思い出された。誰れかそのうちの者に出会すだろうかも知れないと、あたりに注意して歩いた。僕はいつも考え込んでいるので外へ出ても、こんなにそわそわしい歩き方をすることは滅多にないのだ。
 菊子はとうとう僕の家へ来なかった。お袋もまたそうであった。ひょッとすると、菊子の目が全くつぶれたのではないか知らん? あるいはまた野沢も、金がなくなったため、足が遠のいていはしないか? また、かの女は二度、三度、四度目の勤めに出てはいないか?
 こういうことを思い浮べながら、玉乗りのあった前を通っていると吾妻橋の近処に住んでいる友人に会った。
「どこへ行くんだ?」
「散歩だ」
「遠いところまで来たもんだ、な」
「なアに、意味もなく来たんだ」
「どッかで飲もう」ということになり、つれ立って、奥の常磐へあがった。