「農学博士がか。」
「農学博士がか。」
「うむ、まァその博士なら、これで、無肥料で増産ちう一挙両得の方法も教えてくれべえからよ。」
「それもそうだっぺけんど、これで人間の方の温度も計る必要があっぺで。みんな、はア、肥料肥料で逆せ上っていっからよ。いい加減のところで血圧下げてもらアねえと、村中みんな脳溢血だなんて……」
「ところがどうも、その血圧、上るばって下りっこねえ。どうだ、今の電話きいてみろ。」
奥の部屋で、なるほど電話している組合事務係のだみ声がしている。
「……うむ、そんな訳では……なるほどな……うむ、なアる……全く、どうも、いやはや……全くこれ困っちまアな。……いくらでもいいから……はん……ははア……いや、全く……それではまず……さいなら。」
そこでがちゃりと受話器をおく音がして、急ぎ足にスリッパを鳴らしながら係が現れた。半白の小柄な猿のような貌をしたおやじである。わざわざ事務机には向わず、みんなのいる方へ向って火鉢の向う側へ蹲み、両手をふふん……と言いながら組み合せた。出来るだけ七むつかしい、が誰にも当り触りのない顔を彼はそこへ作って見せたのである。