これを聞くと源太は思わずうなつて

 これを聞くと源太は思わずうなつて、
「うーむ、ねつたい!」と言つた。このねつたいがたまらなくいい。正に直情径行の見本のごとき観がある。このねつたいを衆人環視の中ではばからずに言える源太、緋縅か紫裾濃かは知らぬが、ともかくも一方の大将として美々しい鎧兜に威儀を正しながら、地位だの格式だのとけちけちした不純物にいささかもわずらわされることなく平気で天真を流露させることのできる源太。このような源太に対する讃嘆の情を私はどう説明していいかを知らない。
 するとそこへ当の佐々木が出て来た。
 今まではただねたましいだけであつたが、佐々木の顔を見たとたんに源太は無性に腹が立つてきた。あれほど懇望したのに御大将は自分にはくれなかつた。そして、だれにもやることはできないと言つたその馬を現に四郎がやすやすと手に入れているのはいつたいどうしたことだ。主君に対する恨みと四郎に対する怒りとがごつちやになつて燃え上つた。次第によつては四郎と刺しちがえて死んでやろう。あつぱれものの用にもたつべき侍二人一ぺんに失わせて「鎌倉殿の損とらせまゐらせん」とまで思つた。