山海の秋色
十二日、曇り。海岸の風景を一望せんと欲し、車行してブライトンビーチおよびサンドリンガムに至る。時すでに冬季にせまり、寒潮岸を洗い、浴客あとを絶ち、埠頭寂寥たり。茶亭に一休し、温湯に一浴して帰る。海上は茫として、風光の目に入るなし。往復二十五マイルあり。当夕、シャウ氏の案内にてホテルに至り会食す。
十三日、曇り(満月)。早朝寓所を出でて、車行二十九マイル、ヒールズビル村に至る。山間の小駅なり。メルボルンよりここに至り、はじめて渓山を見る。山上に登躋すれば、ビクトリア州の平原を一望するに足るというも、雲煙のために眼界を遮塞せらる。よって、ただちに帰路に向かい、クロイドン駅に降車す。林丘あり河流ありて、夏時の遊歩場に適す。その流水はヤラ川の源流に当たる。この川、メルボルンに至りて海に入る。この辺り概して牧場にして、牛羊の得々として遊ぶを見る。牧場のほかに果林多し。穀類の耕作地はいたってすくなし。路傍の樹木はオーク樹多く、目下落葉最中なり。松、杉に類する樹もまた多し。人家希有にして、車行数里の間に二、三戸を見るのみ。ゆえに野外は寂寞荒涼を極め、目を慰むべき風景なし。これを一言すれば殺風景なり。わが国の野外とは雲泥の相違あり。午後四時帰宅す。夜に入りて天ようやくはれ、一輪の秋月北天に懸かる。詩思おのずから動く。
雨過秋宵露気寒、家書不到思漫漫、知吾独有故山月、飽見北天光一団。
(雨一過して秋の宵に露の気配も寒々しく、家からの手紙もとだえて思いはみだれる。私を知るものはただ故郷の月のみ、あくまで北の空にかかる円い月光をみる。)