もちろんこれは四郎のうそで、彼はちやんと頼朝からもらつてきているのだが、源太のただならぬ顔色を見ると同時にさつそく気転をきかして脚色をしてしまつた。しかし、源太はあくまでも源太だから悪く気をまわしてそれを疑つたりはしない。四郎の一言で今までの低気圧がたちまち雲散霧消して、光風霽月、かんらかんらと朗らかにうち笑つて別れてしまう。まことに男ぼれのする風格である。これほどの源太を、いよいよ先陣あらそいとなると、またもや「馬の腹帯ゆるみて見ゆるぞ」などと一度ならず二度までもだまして平気でいられるとしたら四郎という人間はよほど度しがたい。しかも宇治川の先陣といえば佐々木一人がいい子になつてしまつているが、源太は磨墨のような第二級の馬を宛てがわれながら、実力において優に佐々木を引き離していたのだ。四郎は謀略によつてかろうじて源太に勝つたのであるが、味方に対する謀略などはあまり賞められたものではない。源太にしてもまさか味方の謀略などは予期しなかつただろうから「御親切にありがとう」と感謝しながら腹帯を締めなおしたまでで、これをもつて源太をうすばかのように考えるならば考えるほうがよつぽどどうかしている。
「はあ、然うか、いや知らぬ、愚僧早走り、早合点の癖で、用だけ聞いて、して来いな、とお先ばしりに飛出たばかりで、一向に仔細は知らぬ。が、扨は、根ざす処があるのであつたか。」
「もとよりぢや。――大島守が、此の段、殿中に於いて披露に及ぶと、老中はじめ額を合せて、
此は今めかしく申すに及ばぬ。業平朝臣の(名にしおはゞいざこととはむ)歌の心をまのあたり、鳥の姿に見たいと言ふ、花につけ、月につけ、をりからの菊紅葉につけての思ひ寄には相違あるまい。……大納言心では、将軍家は、其の風流の優しさに感じて、都鳥をば一番、そつと取り、紅、紫の房を飾つた、金銀蒔絵の籠に据ゑ、使も狩衣に烏帽子して、都にのぼす事と思はれよう。ぢやが、海苔一帖、煎餅の袋にも、贈物は心すべきぢや。すぐに其は対手に向ふ、当方の心持の表に相成る。……将軍家へ無心とあれば、都鳥一羽も、城一つも同じ道理ぢや。よき折から京方に対し、関東の武威をあらはすため、都鳥を射て、鴻の羽、鷹の羽の矢を胸さきに裏掻いて貫いたまゝを、故と、蜜柑箱と思ふが如何、即ち其の昔、権現様戦場お持出しの矢疵弾丸痕の残つた鎧櫃に納めて、槍を立てて使者を送らう。と言ふ評定ぢや。」
「気障な奴だ。」
「むゝ、先づ聞けよ。――評定は評定なれど、此を発議したは今時の博士、秦四書頭と言ふ親仁ぢや。」
「うゝ、うゝ。」
「あつ。」
と、武士と屑屋は、思はず声を立てたのである。
見向きもしないで、山伏は挫折つた其の己が片脛を鷲掴みに、片手で踵が穿いた板草鞋を※り棄てると、横銜へに、ばり/\と齧る……
鮮血の、唇を滴々と伝ふを視て、武士と屑屋は一のめりに突伏した。
不思議な事には、へし折つた山伏の片脛のあとには、又おなじやうな脛が生えるのであつた。
杉なる火の車は影を滅した。寂寞として一層もの凄い。
「骨も筋もないわ、肝魂も消えて居る。不便や、武士……詫をして取らさうか。」
と小法師が、やゝもの静に、
「お行者よ。灸とは何かな。」
七
此の間に――
「塩辛い。」
と言ふ山伏の声がして、がぶ/\。
「塩辛い。」
と言つて、湖水の水を、がぶ/\と飲んだ――
「お行者。」
「其の武士は、小堀伝十郎と申す――陪臣なれど、それとても千石を食むのぢや。主人の殿は松平大島守と言ふ……」
「西国方の諸侯だな。」
「されば御譜代。将軍家に、流も源も深い若年寄ぢや。……何と御坊。……今度、其の若年寄に、便宜あつて、京都比野大納言殿より、(江戸隅田川の都鳥が見たい、一羽首尾ようして送られよ。)と云ふお頼みがあつたと思へ。――御坊の羽黒、拙道の秋葉に於いても、旦那たちがこの度の一儀を思ひ立たれて、拙道等使に立つたも此のためぢや。申さずとも、御坊は承知と存ずるが。」
とハタと掌を一つ打つと、遙に隔つた真暗な渚から、キリ/\/\と舞ひながら、森も潜つて、水の面を舞つて来るのを、小法師は指の先へ宙で受けた。つはぶきの葉を喇叭に巻いたは、即ち煙管で。蘆の穂といはず、草と言はず※り取つて、青磁色の長い爪に、火を翳して、ぶく/\と吸つけた。火縄を取つて、うしろ状の、肩越に、ポン、と投げると、杉の枝に挟まつて、ふつと消えたと思つたのが、めら/\と赤く燃上つた。ぱち/\と鳴ると、双子山颪颯として、松明ばかりに燃えたのが、見る/\うちに、轟と響いて、凡そ片輪車の大きさに火の搦んだのが、梢に掛つて、ぐる/\ぐる/\と廻る。
此の火に照された、二個の魔神の状を見よ。けたゝましい人声幽に、鉄砲を肩に、猟師が二人のめりつ、反りつ、尾花の波に漂うて森の中を遁げて行く。
山兎が二三疋、あとを追ふやうに、躍つて駈けた。
「小法師、あひかはらず悪戯ぢや。」
と兜のやうな額皺の下に、恐しい目を光らしながら、山伏は赤い鼻をひこ/\と笑つたが、
「拙道、煙草は不調法ぢや。然らば相伴に腰兵糧は使はうよ。」
と胡坐かいた片脛を、づかりと投出すと、両手で逆に取つて、上へ反せ、膝ぶしからボキリボキリ、ミシリとやる。
「何、何、愚僧が三度息を吹掛け、あの身体中まじなうた。屑買が明日が日、奉行の鼻毛を抜かうとも、嚔をするばかりで、一向に目は附けん。其処に聊も懸念はない。が、正直な気のいゝ屑屋だ。不便や、定めし驚いたらう。……労力やすめに、京見物をさせて、大仏前の餅なりと振舞はうと思うて、足ついでに飛んで来た。が、いや、先刻の、それよ。……城の石垣に於て、大蛇と捏合うた、あの臭気が脊筋から脇へ纏うて、飛ぶほどに、駈けるほどに、段々堪らぬ。よつて、此の大盥で、一寸行水をばちや/\遣つた。
愚僧は好事――お行者こそ御苦労な。江戸まで、あの荷物を送と見えます。――武士は何とした、心が萎えて、手足が突張り、殊の外疲れたやうに見受けるな。」
「おゝ、其の武士は、部役のほかに、仔細あつて、些と灸を用ゐたのぢや。」
「道理こそ、……此は暑からう。待て/\、お行者。灸と言へば、煙草が一吹し吹したい。丁ど、あの岨道に蛍ほどのものが見える。猟師が出たな。火縄らしい。借りるぞよ。来い。」
で、此の沼は、話を聞いて、お考へに成るほど大なものではないのです。然うかと云つて、向う岸とさし向つて聲が屆くほどは小さくない。それぢや餘程廣いのか、と云ふのに、又然うでもない、ものの十四五分も歩行いたら、容易く一周り出來さうなんです。但し十四五分で一周と云つて、すぐに思ふほど、狹いのでもないのです。
と、恁う言ひます内にも、其の沼が伸びたり縮んだり、すぼまつたり、擴がつたり、動いて居るやうでせう。――居ますか、結構です――其のつもりでお聞き下さい。
一體、水と云ふものは、一雫の中にも河童が一個居て住むと云ふ國が有りますくらゐ、氣心の知れないものです。分けて底澄んで少し白味を帶びて、とろ/\と然も岸とすれ/″\に滿々と湛へた古沼ですもの。丁ど、其の日の空模樣、雲と同一に淀りとして、雲の動く方へ、一所に動いて、時々、てら/\と天に薄日が映すと、其の光を受けて、晃々と光るのが、沼の面に眼があつて、薄目に白く人を窺ふやうでした。
此では、其の沼が、何だか不氣味なやうですが、何、一寸の間の事で、――四時下り、五時前と云ふ時刻――暑い日で、大層疲れて、汀にぐつたりと成つて一息吐いて居る中には、雲が、なだらかに流れて、薄いけれども平に日を包むと、沼の水は靜に成つて、そして、少し薄暗い影が渡りました。
淋しげに頷いて、
「ところがもし御同様じゃで、」
「御同様!?」と五助は日脚を見て仕事に懸る気、寮の美人の剃刀を研ぐ気であろう。桶の中で砥石を洗いながら、慌てたように謂返した。
「御同様は気がねえぜ、お前の方にも曰があるかい。」
「ある段か、お前さん。こういうては何じゃけれど、田町の剃刀研、私は広徳寺前を右へ寄って、稲荷町の鏡研、自分達が早や変化の類じゃ、へへへへへ。」と薄笑。
「おやおや、汝から名乗る奴もねえもんだ。」と、かっちり、つらつらと石を合せる。
「じゃがお前、東京と代が替って、こちとらはまるで死んだ江戸のお位牌の姿じゃわ、羅宇屋の方はまだ開けたのが出来たけれど、もう貍穴の狸、梅暮里の鰌などと同一じゃて。その癖職人絵合せの一枚刷にゃ、烏帽子素袍を着て出ようというのじゃ。」
「それだけになお罪が重いわ。」
「まんざらその祟に因縁のないことも無いのじゃ、時に十九日の。」
「何か剃刀の失せるに就いてか、」
「つい四五日前、町内の差配人さんが、前の溝川の橋を渡って、蔀を下した薄暗い店さきへ、顔を出さしったわ。はて、店賃の御催促。万年町の縁の下へ引越すにも、尨犬に渡をつけんことにゃあなりませぬ。それが早や出来ませぬ仕誼、一刻も猶予ならぬ立退けでござりましょう。その儀ならば後とは申しませぬ、たった今川ン中へ引越しますと謂うたらば。
差配さん苦笑をして、狸爺め、濁酒に喰い酔って、千鳥足で帰って来たとて、桟橋を踏外そうという風かい。溝店のお祖師様と兄弟分だ、少い内から泥濘へ踏込んだ験のない己だ、と、手前太平楽を並べる癖に。
子供服のブランドとして大人気のシャーリー・テンプル。
ここのノベルティはいつも最高にかわいくて、大人の私でも欲しくなってしまうのです。
中でもシャーリードールという、着せ替え人形はどうしても欲しくて本来の商品よりノベルティ目当てで購入してしまいました。
手に入れたシャーリーちゃんは本当にかわいくて、これだけで商品化して欲しいと思わずにはいられません。
ちゃんとハンガーや着せ替えの洋服まで付いてくるのですから、ノベルティと言えどブランドのこだわりを感じました。
このお人形は、ドール愛好家の中でも高い人気でオークションではかなり高値で取引されているようです。
ちょっと懐かしいレトロなデザインと、しっかりした作りが昔お人形遊びをしていた大人のハートを鷲づかみにするのでしょうか。
子供に遊ばせるのはちょっと勿体無いと思ってしまう、そんな豪華なノベルティでした。
近々、美容室に行こうと思っているので電話で予約を入れました。
私の髪の毛は染めたりしておらず黒色なのでいつもはカットだけなのですが、ちょっと気分を変えてカラーリングもしてもらおうと思っています。
カラーリングは初めてなので、電話での予約の際に染める色とかも言わないといけないのかなと思い、雑誌を見てどの色にしようかと事前にしっかりと決めておいたのですが、美容室に予約の電話を入れて、カットとカラーをお願いします。といったら、具体的な色までは聞かれませんでした。
美容室に限らず初めての事はちょっととまどいもありますね。
というか、カットは当たり前ですので予約する時は「カラーの予約をお願いします」だけでも良いのかもしれませんね。
でもカラーしてもらうと髪の毛の色も明るくなるので今から楽しみです。
昨日帰りに全く知らない女性が声をかけてきた。こういうのは大概壺を買わせるとかそういう類の勧誘であり普段ならスルーするのですが、たまにはいいだろうと一緒に喫茶店へ入りました。
僕と知らない女性二人共コーヒーを頼み他愛のない話をしつつ、さて、いつになったら壺の話、もしくは高い絵画の話が出てくるのかと様子を見ていましたが一向に出てきません。
最終的には話が盛り上がりメールを交換するまでいったところでさようならしました。普通ならばサヨナラする前にちょっと寄りたい所があるから〜があるはずなのに今日はない、おかしい・・・と感じつつ家に帰りました。
あれはナンパだったのか、まさかなーと思いつつ食べる夕飯は味がしませんでした。メールを交換してよかったのだろうかと少し不安を感じつつ就寝しました。
そのほうも滝の白糸といわれては、ずいぶん名代の芸人ではないか。それが、かりそめにも虚偽などを申しては、その名に対しても実に愧ずべきことだ。人は一代、名は末代だぞ。またそのほうのような名代の芸人になれば、ずいぶん多数の贔屓もあろう、その贔屓が、裁判所においてそのほうが虚偽に申し立てて、それがために罪なき者に罪を負わせたと聞いたならば、ああ、白糸はあっぱれな心掛けだと言って誉めるか、喜ぶかな。もし本官がそのほうの贔屓であったなら、今日限り愛想を尽かして、以来は道で遭おうとも唾もしかけんな。しかし長年の贔屓であってみれば、まず愛想を尽かす前に十分勧告をして、卑怯千万な虚偽の申し立てなどは、命に換えてもさせんつもりだ」
かく諭したりし欣弥の声音は、ただにその平生を識れる、傍聴席なる渠の母のみにあらずして、法官も聴衆もおのずからその異常なるを聞き得たりしなり。白糸の愁わしかりし眼はにわかに清く輝きて、
「そんなら事実を申しましょうか」
裁判長はしとやかに、
「うむ、隠さずに申せ」
「実は奪られました」