怪しい紙切
「やあ、ありがとう。トラ十兄い、恩にきるぜ」と、帆村がいえば、
「ふん、お前までが、トラ十トラ十といいやがる。これからは丁野船長とよべ。そういわなきゃ、おれはお前に、船から下りてもらうぜ」
「いや、わるかった。船長、どうか一つたのむ。たすけてくれ」
「ふん、じゃあ、のれ」
トラ十に、いばりかえられながら、帆村探偵は、やっと和船のうえの人となった。
「曾呂利よ。お前は、よっぽど運がいい若者だ」
と、トラ十はエンジンのところにすわりこんで、ひやかすようにいった。
「トラ十、いや丁野船長。お前、よくまあ、こんなりっぱな船を手に入れたもんだなあ。いったいどこで、手に入れたんだい」
帆村探偵は、服のしずくをおとしながら、そういうと、
「な、なんだって」
と、トラ十は、急にこわい目つきになり、
「そ、そんなことは、お前らの知ったことか。よけいな口をきくな」
と、帆村を叱りつけた。
それからしばらく、二人はだまりこんでしまった。