やがて、熱いコーヒーがはこぼれ

 やがて、熱いコーヒーがはこぼれ、わかい船のりはひと息つくと、まだこうふんのさめないようすで話しだした。
「おどろいたの、なんのって、きょうのようにおどろいたことは、いままで一度だってありはしねえよ、あにきだってその場にいあわせたら、きっと目の玉がひっくりかえるほどおどろくにちがいないよ」
「おれがおどろくか、おどろかないか、そんなことはいいけど、その話というのはどんなことなんだい? おまえはかんじんのことはちっとも話してねえぜ」
「うん、それだよ。おれが朝はやくセント・マイクル小路を歩いていたんだ。まだ時間が早かったので、街はしいんとしていて、通っている人は、おれのずっと先を歩いている年よりきりで、ほかに人かげは前にも後にも見えなかった。おれはこんど乗っていく船や、ゆく先の港のことを考えて歩いていた。その時、どういうきっかけだったかわからないが、ひょいとよこの壁に目をやった」