何、何、愚僧が
「何、何、愚僧が三度息を吹掛け、あの身体中まじなうた。屑買が明日が日、奉行の鼻毛を抜かうとも、嚔をするばかりで、一向に目は附けん。其処に聊も懸念はない。が、正直な気のいゝ屑屋だ。不便や、定めし驚いたらう。……労力やすめに、京見物をさせて、大仏前の餅なりと振舞はうと思うて、足ついでに飛んで来た。が、いや、先刻の、それよ。……城の石垣に於て、大蛇と捏合うた、あの臭気が脊筋から脇へ纏うて、飛ぶほどに、駈けるほどに、段々堪らぬ。よつて、此の大盥で、一寸行水をばちや/\遣つた。
愚僧は好事――お行者こそ御苦労な。江戸まで、あの荷物を送と見えます。――武士は何とした、心が萎えて、手足が突張り、殊の外疲れたやうに見受けるな。」
「おゝ、其の武士は、部役のほかに、仔細あつて、些と灸を用ゐたのぢや。」
「道理こそ、……此は暑からう。待て/\、お行者。灸と言へば、煙草が一吹し吹したい。丁ど、あの岨道に蛍ほどのものが見える。猟師が出たな。火縄らしい。借りるぞよ。来い。」