とハタと掌を一つ打つと
とハタと掌を一つ打つと、遙に隔つた真暗な渚から、キリ/\/\と舞ひながら、森も潜つて、水の面を舞つて来るのを、小法師は指の先へ宙で受けた。つはぶきの葉を喇叭に巻いたは、即ち煙管で。蘆の穂といはず、草と言はず※り取つて、青磁色の長い爪に、火を翳して、ぶく/\と吸つけた。火縄を取つて、うしろ状の、肩越に、ポン、と投げると、杉の枝に挟まつて、ふつと消えたと思つたのが、めら/\と赤く燃上つた。ぱち/\と鳴ると、双子山颪颯として、松明ばかりに燃えたのが、見る/\うちに、轟と響いて、凡そ片輪車の大きさに火の搦んだのが、梢に掛つて、ぐる/\ぐる/\と廻る。
此の火に照された、二個の魔神の状を見よ。けたゝましい人声幽に、鉄砲を肩に、猟師が二人のめりつ、反りつ、尾花の波に漂うて森の中を遁げて行く。
山兎が二三疋、あとを追ふやうに、躍つて駈けた。
「小法師、あひかはらず悪戯ぢや。」
と兜のやうな額皺の下に、恐しい目を光らしながら、山伏は赤い鼻をひこ/\と笑つたが、
「拙道、煙草は不調法ぢや。然らば相伴に腰兵糧は使はうよ。」
と胡坐かいた片脛を、づかりと投出すと、両手で逆に取つて、上へ反せ、膝ぶしからボキリボキリ、ミシリとやる。