「うゝ、うゝ。」
「うゝ、うゝ。」
「あつ。」
と、武士と屑屋は、思はず声を立てたのである。
見向きもしないで、山伏は挫折つた其の己が片脛を鷲掴みに、片手で踵が穿いた板草鞋を※り棄てると、横銜へに、ばり/\と齧る……
鮮血の、唇を滴々と伝ふを視て、武士と屑屋は一のめりに突伏した。
不思議な事には、へし折つた山伏の片脛のあとには、又おなじやうな脛が生えるのであつた。
杉なる火の車は影を滅した。寂寞として一層もの凄い。
「骨も筋もないわ、肝魂も消えて居る。不便や、武士……詫をして取らさうか。」
と小法師が、やゝもの静に、
「お行者よ。灸とは何かな。」
七
此の間に――
「塩辛い。」
と言ふ山伏の声がして、がぶ/\。
「塩辛い。」
と言つて、湖水の水を、がぶ/\と飲んだ――
「お行者。」
「其の武士は、小堀伝十郎と申す――陪臣なれど、それとても千石を食むのぢや。主人の殿は松平大島守と言ふ……」
「西国方の諸侯だな。」
「されば御譜代。将軍家に、流も源も深い若年寄ぢや。……何と御坊。……今度、其の若年寄に、便宜あつて、京都比野大納言殿より、(江戸隅田川の都鳥が見たい、一羽首尾ようして送られよ。)と云ふお頼みがあつたと思へ。――御坊の羽黒、拙道の秋葉に於いても、旦那たちがこの度の一儀を思ひ立たれて、拙道等使に立つたも此のためぢや。申さずとも、御坊は承知と存ずるが。」