もちろんこれは四郎のうそで
もちろんこれは四郎のうそで、彼はちやんと頼朝からもらつてきているのだが、源太のただならぬ顔色を見ると同時にさつそく気転をきかして脚色をしてしまつた。しかし、源太はあくまでも源太だから悪く気をまわしてそれを疑つたりはしない。四郎の一言で今までの低気圧がたちまち雲散霧消して、光風霽月、かんらかんらと朗らかにうち笑つて別れてしまう。まことに男ぼれのする風格である。これほどの源太を、いよいよ先陣あらそいとなると、またもや「馬の腹帯ゆるみて見ゆるぞ」などと一度ならず二度までもだまして平気でいられるとしたら四郎という人間はよほど度しがたい。しかも宇治川の先陣といえば佐々木一人がいい子になつてしまつているが、源太は磨墨のような第二級の馬を宛てがわれながら、実力において優に佐々木を引き離していたのだ。四郎は謀略によつてかろうじて源太に勝つたのであるが、味方に対する謀略などはあまり賞められたものではない。源太にしてもまさか味方の謀略などは予期しなかつただろうから「御親切にありがとう」と感謝しながら腹帯を締めなおしたまでで、これをもつて源太をうすばかのように考えるならば考えるほうがよつぽどどうかしている。