二号艇
二号艇は、波間にゆらゆら漂っている。
そのうえに、人影はさらにない。櫂さえ見えないのだ。
せっかく身ぢかに発見した僚艇が、このような有様なので、一号艇上に指揮をとる佐伯船長以下二十三名の船員たちは、いいあわせたように不安な気持に顔をくもらせている。
「さあ漕げ、もうすこしだ。お一、二」
船長は船員たちに力をつける。
ボートは、海面を矢のように滑ってゆく。
船長は、ボートのうえに望遠鏡をはなさない。その傍にいる無電局長の古谷が気がついたときは、望遠鏡を握る佐伯船長の腕が、なぜかぶるぶると慄えていたのであった。
「船長、ボートの中になにが見えます?」
「うむ」
佐伯船長は、望遠鏡を眼からひき離すように下ろして、ほっと溜息をついた。それはまるで悪夢からさめた人のようであった。船長は、なにかしらないが、ボートの中に思いがけないものを発見したらしいのである。